151.其の必ず趨(おもむ)く所に出ず :相手が守らざるを得ない致命的な急所(死地)へ攻撃を仕掛ける。とは?ビジネス戦略での3つの活用法をご紹介

151.其の必ず趨(おもむ)く所に出ず :相手が守らざるを得ない致命的な急所(死地)へ攻撃を仕掛ける。とは?ビジネス戦略での3つの活用法をご紹介

ビジネスの現場や戦略論を学ぶ中で、古典的な兵法書である『孫子』の教えに触れる機会は多いと思われます。
その中でも、相手の行動をコントロールし、自らに有利な状況を作り出すための具体的な戦術として注目される言葉があります。
この言葉の真意や、現代のビジネスシーンにおいてどのように応用できるのかについて、関心をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、この戦略的な教えが持つ本来の意味から、現代のマーケティングや企業間競争における具体的な活用法までを詳しく解説します。
読み終える頃には、競合他社に対して主導権を握り、自社のビジネスを優位に進めるための戦略的思考が身についているはずです。
古典の知恵を紐解きながら、明日からのビジネスに活かせるヒントを探求していきましょう。

孫子の兵法が教える主導権の握り方

孫子の兵法が教える主導権の握り方

結論から申し上げますと、この教えの核心は、相手が絶対に無視できない急所を突き、相手を自らの思い通りに動かすことにあります。
単に相手の弱点を攻撃するのではなく、相手にとって失えば致命傷となるような拠点や価値、すなわち「必ず守らざるを得ない場所」に対して行動を起こすことが重要とされています。

相手がその急所を守るために動かざるを得ない状況を作り出すことで、実質的にこちらが相手の行動をコントロールしている状態となります。
そして、相手が急所の防衛に気を取られている隙に、本来の目的である「意表を突く場所」へと自軍を進めるという、二段構えの戦術がこの言葉の真の狙いと考えられます。
つまり、相手に選択肢を与えず、自らが設定した舞台へと引きずり出すための高度な戦略論と言えます。

戦略的優位性を生み出す論理構造

戦略的優位性を生み出す論理構造

なぜこのようなアプローチが、相手を圧倒するための有効な手段となるのでしょうか。
その理由を、『孫子』虚実篇の全体的な文脈や、言葉の定義から詳しく紐解いていきます。

「其の必ず趨く所」が持つ意味

「其の必ず趨く所」とは、文字通りには「敵が必ず向かわざるを得ない場所」を指します。
軍事的な視点では、兵站や補給路、首都、あるいは重要な要塞など、失うことが直ちに敗北につながる拠点がこれに該当するとされています。
現代のビジネスに置き換えれば、企業の主力事業の収益源、重要な顧客基盤、あるいはブランドの信頼性などが当てはまると思われます。

重要なのは、それが単なる「弱点」ではなく、相手にとって戦略上または心理上、絶対に放置できない利益や脅威の集中点であるということです。
この場所を脅かされると、相手は自らの計画や都合を捨ててでも、防衛のために動かざるを得なくなります。
結果として、相手の行動パターンを予測し、制限することが可能となるのです。

「出づ」と「趨く」の立場の違い

この一節における「出づ」と「趨く」という言葉の対比には、深い意味が込められていると考えられます。
「其の必ず趨く所に出で」という表現において、自軍は先にその要地へと「出る(布陣する、行動を起こす)」側となります。
一方で、敵はその動きに対応して「趨く(駆け付けざるを得ない)」立場に追い込まれます。

この構図は、こちらが有利な舞台を先に設定し、相手をそこへ呼び込むという主導権の所在を明確に示しています。
防衛に追われて後手に回るのではなく、相手に選択肢の少ない状況を強制的に作り出す側に立つことが、戦略的な優位性を確立する上で不可欠とされています。

「人を致して致されず」という根本思想

この教えは、『孫子』虚実篇の冒頭に掲げられている「人を致して致されず(人をしていたらしめて自らはいたらしめられず)」という哲学と密接に結びついています。
これは、「敵をこちらの思い通りに動かし、自分は敵に動かされない」という理想的な状態を指します。

虚実篇では、敵に余裕があるときには疲弊させ、満ち足りているときには飢えさせ、安住しているときには動かすという方針が示されています。
その具体的な手段として、「敵が必ず来ざるを得ない場所」に先回りし、相手を動かした上で、予期せぬ場所に向かうという戦術が展開されます。
つまり、おとりを用いて相手の陣形やリソースを分散させ、本命の標的を確実に仕留めるための体系的なプロセスの一部として位置づけられていると考えられます。

「死地」という言葉の解釈について

なお、相手が守らざるを得ない致命的な急所を「死地」と表現することがありますが、これには学術的な補足が必要です。
『孫子』において「死地」という言葉は、本来「九地篇」に登場する専門用語とされています。
九地篇での「死地」は、「速やかに戦えば生き残れるが、躊躇すれば全滅するような、退路のない場所」を意味し、主に自軍の兵士を奮い立たせるための状況を指します。

一方で、今回のテーマである「其の必ず趨く所」は、敵の視点から見た「必ず守らざるを得ない場所」です。
したがって、厳密には用語としての意味合いが異なりますが、「そこを守りきれなければ敵にとって致命傷(死地)となるような急所」という意味合いで、現代では比喩的に用いられることが多いようです。
この点を理解しておくことで、より深く古典の知恵を解釈できると思われます。

現代ビジネスにおける3つの応用事例

古典的な兵法は、現代のビジネス戦略やマーケティングにおいても高い有用性を持っています。
ここでは、企業間競争において相手の急所を突き、主導権を握るための具体的な応用事例を3つご紹介します。

事例1:スタートアップ企業による既存大手の急所への参入

新規事業やスタートアップ企業が、巨大な資本を持つ既存の競合他社に挑む際の戦略として活用されるケースがあります。
既存大手が最も利益を上げている主力市場(=必ず守らざるを得ない急所)に対して、スタートアップがあえて低価格や革新的なサービスで揺さぶりをかけます。

大手企業は、自社の主力事業のシェアを守るために、価格競争に応じたり、多額の広告費を投じたりして防衛に動かざるを得なくなります。
しかし、スタートアップ企業の真の狙い(本命)は、別の付加価値サービスやデータビジネスによる収益化に置かれています。
大手が主力事業の防衛にリソースを割いている間に、スタートアップは意表を突く別の領域で市場基盤を確立するという、まさに二段構えの戦術と言えます。

事例2:プラットフォームビジネスにおける顧客導線の確保

インターネット上のサービス設計やプラットフォームビジネスにおいても、この考え方は応用されています。
ユーザーがサービスを利用する上で「必ず通らざるを得ない導線」や「不可欠な機能」を特定し、そこをいち早く押さえる戦略です。

例えば、決済システムや認証基盤、あるいは検索ポータルなど、顧客にとってのインフラとなる部分を無料で提供し、市場の標準(デファクトスタンダード)を獲得します。
競合他社から見れば、そのプラットフォーム上を通らなければ顧客にリーチできないという「致命的な急所」を握られた状態となります。
このように、顧客の行動の必然性を利用して自社に有利な生態系を構築する手法は、現代のデジタルマーケティングにおいて非常に強力な武器と考えられます。

事例3:マーケティングにおける競合のコア価値の無力化

製品プロモーションやブランディングの領域でも、相手の守らざるを得ない価値を標的にすることがあります。
競合製品が「高品質」を最大の売りにしている場合、その品質を支える技術や素材の前提を覆すような新しい基準を市場に提示します。

競合は自社のブランドイメージを守るため、従来の「高品質」を証明するためのプロモーションに注力せざるを得なくなります。
その間に、自社は「環境配慮」や「ユーザー体験の向上」といった、競合が予期していない新しい価値軸(意わざる所)で消費者の支持を集めます。
相手の強みを逆手にとり、防衛戦に引きずり込むことで、市場のルールそのものを自社に有利に書き換える高度なマーケティング戦略と言えるでしょう。

主導権を握るための戦略的思考の要点

ここまで、『孫子』に記された戦略的な教えの意味と、そのビジネスにおける応用例について解説してまいりました。
この記事の要点を整理します。

  • 相手が戦略上・心理上、絶対に無視できない「必ず守らざるを得ない急所」を標的にすること。
  • 自らが先に舞台を設定し、相手を防衛のために動かざるを得ない状況へと引きずり込むこと。
  • 相手が急所の防衛に気を取られている間に、予期せぬ場所(本命)で利益を獲得する二段構えの戦術であること。
  • 「人を致して致されず」という、相手の行動をコントロールし自らは主導権を握る哲学が根底にあること。

これらのポイントを理解することで、単なる力勝負ではなく、相手の選択肢を制御する知的な戦略を展開することが可能となります。
古典が伝える人間心理や組織の行動原理は、時代を超えて現代のビジネスシーンにも深く通じるものがあると考えられます。

戦略を実践し、次の一歩を踏み出すために

競合他社との競争に行き詰まりを感じたり、自社のリソース不足に悩んだりしたときこそ、視点を変えるチャンスかもしれません。
真正面からぶつかるのではなく、「相手にとって絶対に譲れないものは何か」「相手が動かざるを得ない状況をどう作るか」を思考することで、新たな突破口が見えてくるはずです。

まずは、自社の属する市場において、競合の「必ず趨く所」がどこにあるのかを分析することから始めてみてはいかがでしょうか。
あなたのビジネスが主導権を握り、より有利な展開へと進んでいくための戦略的な一歩を、今日から踏み出していただければ幸いです。

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