155.善く攻むる者は、敵其の守る所を知らず :攻めが巧妙であれば、相手はどこを守ればよいかパニックに陥る。?その真意とビジネスに応用する3つのポイントを解説

155.善く攻むる者は、敵其の守る所を知らず :攻めが巧妙であれば、相手はどこを守ればよいかパニックに陥る。?その真意とビジネスに応用する3つのポイントを解説

孫子の兵法に登場するこの印象的な言葉について、その真意や現代の経営にどのように活用できるのか、疑問に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一見すると古代の軍事戦術のように思われますが、この言葉には現代のビジネスやマーケティングに通じる普遍的な戦略の法則が隠されています。
多くの経営者や戦略家が、自社のリソースを最大限に活かし、競合他社との競争を勝ち抜くための指針としてこの考え方を重視していると言われています。
この記事では、この言葉が持つ本来の意味から、現代の経営戦略として応用するための具体的なアプローチまでを客観的に解説します。
最後までお読みいただくことで、競合他社との正面衝突を避け、自社が市場において主導権を握るための新しい視点が得られると考えられます。

相手の手薄な領域を突き、防御リソースを分散させることで優位に立つ戦略

相手の手薄な領域を突き、防御リソースを分散させることで優位に立つ戦略

中国の春秋時代に書かれたとされる兵法書『孫子』の中でも、この一節は非常に重要な戦略的意義を持っているとされています。
原文は「攻而必取者、攻其所不守也」から始まり、「善く攻むる者は、敵其の守る所を知らず」と結ばれます。
これは一般的な現代語訳では、「攻めて必ず勝ち取る者は、敵が守っていない所を攻める。だから攻撃が巧みな者に対しては、敵はどこを守ればよいか分からなくなる」と解釈されます。
つまり、相手の強みである「実」を避け、弱点である「虚」を突くことで、相手の予測や防御の優先順位を崩壊させるというアプローチです。

攻撃が巧妙であればあるほど、相手はすべての場所が狙われているような錯覚に陥り、防衛ラインをあちこちに引き伸ばさざるを得なくなります。
その結果、相手の組織内で意思決定の遅れやリソースの分散が生じ、事実上防御機能が麻痺してパニックに近い状態に陥ると考えられます。
現代のビジネスにおいても、この思考法は非常に有効です。
競合他社が強固な基盤を持つ市場で正面から戦うのではなく、相手がまだ気づいていない、あるいは手薄になっているニッチな市場や顧客層を狙うことで、圧倒的な優位性を築くことが可能になります。

なぜ相手はどこを守るべきか判断できなくなるのか

なぜ相手はどこを守るべきか判断できなくなるのか

この戦略がなぜそれほどまでに効果的であるのか、その背景には深い心理的・構造的な理由が存在します。
『孫子』の「虚実篇」に記された哲学を紐解きながら、その理由を詳しく解説します。

「虚」と「実」を見極めることで生まれる圧倒的な優位性

この一節は、孫子の「虚実篇」という章のまとめ部分に位置づけられています。
直前の文章には「千里を行きて労せざる者は、無人の地を行けばなり」と記されています。
これは、どれだけ長い距離を進軍しても疲弊しないのは、敵がいない場所(摩擦のないルート)を進んでいるからだ、という意味です。
この考え方の根底にあるのは、敵と真正面からぶつかることによる自陣の消耗を徹底的に避けるという合理主義です。

相手の「実(強固に防御されている場所や強み)」に対して攻撃を仕掛けるのは、多大な犠牲を伴う下策とされています。
一方で、攻撃が巧みな者は、相手の「虚(防御が手薄な場所、想定外の領域)」を冷静に見極め、そこに資源を集中させます。
防御する側からすれば、強固な防衛線を敷いている正面には一向に攻撃が来ず、予期せぬ場所から次々と侵攻されるため、どこに人員や資源を再配置すべきか判断がつかなくなります。
これが、相手の判断力を奪い、混乱に陥れる最大の要因と考えられます。

攻撃と防御は表裏一体のセットであるという視点

孫子はこの一節において、攻撃だけでなく防御についても同じ論理を展開しています。
「善く守る者は、敵其の攻むる所を知らず(守備が巧みな者に対しては、敵はどこを攻めてよいか分からなくなる)」と対になっています。
真に強固な防御とは、城壁を高く厚くすることだけではありません。
相手が「ここを攻めても利益がない」「罠かもしれない」と考え、攻撃する意欲そのものを削ぐような陣形や態勢をとることが究極の守りであるとされています。

この「攻め手も読ませず、守り手も読ませない」という攻守セットの発想は、相手から主導権を完全に奪い取るためのものです。
相手はこちらの意図が読めないため、自発的な行動を起こすことができず、常にこちらの動きに対する「後手」の対応を強いられることになります。
常に主導権を握り続けることで、相手の思考を飽和状態にさせることができるのです。

「無形」と「無声」に至るほどの巧妙さ

この一節の直後には、「微なるかな微なるかな、無形に至る。神なるかな神なるかな、無声に至る」という言葉が続きます。
これは、戦略や戦術の極意は、最終的に「形がない(目に見えない)」状態や「声がない(音が聞こえない)」状態に至るということを意味しています。
相手から見て、こちらがどのような陣形を組んでいるのか、どのような意図を持っているのかが全く読み取れない状態です。

ビジネスに置き換えれば、競合他社から見て、自社がどこをターゲットにしているのか、どのようなビジネスモデルで利益を生み出そうとしているのかが不透明であることを指します。
動いているはずなのに目立たず、競合が脅威に気づいた時にはすでに市場のシェアを確保して手遅れになっているという状態を作り出すことが理想とされています。
このような情報非対称性を意図的に生み出すことが、相手を混乱させる高度な戦略の核心です。

現代ビジネスに応用できる3つの戦略事例

それでは、この孫子の教えは、現代の企業経営やマーケティングにおいて具体的にどのように応用されているのでしょうか。
多くの専門家や経営コンサルタントが提唱している代表的な事例を3つご紹介します。

ランチェスター戦略に基づく「弱者の一点集中」

孫子の虚実の概念は、近代的な経営戦略である「ランチェスター戦略」と非常に高い親和性があると言われています。
ランチェスター戦略において、業界におけるシェア下位の企業(弱者)は、大企業(強者)と正面から全面戦争をしてはならないとされています。
強者と同じ土俵で、同じような商品やサービスを展開すれば、必ず資本力や組織力の差で敗北するからです。

そこで弱者は、大企業がカバーしきれていない「ニッチな市場」「特定の地域」「特殊な顧客層」を見つけ出し、そこに自社の限られた経営資源を集中投下します。
これがまさに「敵の守っていない所を攻める」という戦略です。
大企業から見れば、自社の主力事業ではない小さな市場に局地戦を挑まれるため、そこに莫大な資源を割いて防衛すべきかどうかの判断に迷いが生じます。
この大企業の意思決定の遅れやリソース分散の隙を突くことで、中小企業でも特定の領域で圧倒的なNo.1を獲得することができると考えられます。

価格競争を回避する独自のポジショニング戦略

現代の市場環境では、競合他社と同じような価値を提供していると、最終的には価格を下げるしか戦う手段がなくなる「価格競争」に陥りがちです。
このレッドオーシャン(血みどろの競争市場)から脱却するためにも、孫子の教えが活かされます。
競合が想定していない新たなサービス形態や販売チャネルを選ぶことで、戦う土俵そのものをずらすというアプローチです。

  • 製品の販売のみを行っていた業界で、いち早くサブスクリプション(定額制)モデルを導入する。
  • 対面販売が常識とされていたサービスを、完全オンライン化・自動化して提供する。
  • 機能性で勝負する市場において、あえて「デザイン性」や「社会的意義」を前面に打ち出す。

このように戦いのルールを変更してしまうと、競合他社は「これまでの強み(実)」を活かすことができなくなります。
相手からすれば、自社の既存のビジネスモデルを守りながら新しい脅威に対抗しなければならず、対応が後手に回り、組織全体がパニックに陥る可能性が高まります。
競争そのものを無意味化する独自の位置取り(ポジショニング)は、無形の攻めの一例と言えます。

主導権を握り、相手に狙いを読ませないリーダーシップ

組織マネジメントや自己啓発、あるいは他社との交渉術の文脈でも、この言葉はしばしば引用されます。
ビジネスの交渉の場において、自社の「どうしても譲れない条件(本命)」と「妥協できる条件」を早々に相手に悟られてしまうと、相手に有利な形で交渉を進められてしまいます。
相手にこちらの意図や焦りを読ませないよう、冷静に振る舞いながら複数の選択肢を提示することで、相手はどこに防衛線を張るべきか分からなくなります。

また、リーダーシップの観点からは、常に予測可能なルーティンだけで動くのではなく、時には既存の枠組みを壊すような大胆な意思決定を行うことが求められる場合があります。
「あの企業は次に何を仕掛けてくるか分からない」という評判を業界内で確立できれば、それ自体が強力な抑止力となり、競合の攻撃意欲を削ぐことにつながると考えられています。
相手にペースを握らせず、常に自分たちの土俵で戦いをデザインする姿勢が、変化の激しい現代において重要視されています。

戦う場所を自ら選び、相手を後手に回らせる原理原則

この記事では、孫子の兵法における重要な一節の意味と、それをビジネス戦略にどう落とし込むかについて解説してきました。
「攻めて必ず勝ち取る者は、敵が守っていない所を攻める」という言葉は、決して卑怯な騙し討ちを推奨しているわけではありません。
自社の強みと相手の弱点を冷静に分析し、無駄な摩擦や消耗を避けて最大の成果を得るための、極めて合理的な思考法です。

競合他社が強固な基盤を持つ場所に正面から挑むのではなく、手薄な領域に一点集中することで、相手の防御リソースを分散させ、判断力を奪うことができます。
そして、こちらの戦略や狙いを相手に読ませない「無形・無声」の状態を作り出すことで、常に市場における主導権を握り続けることが可能になります。
この考え方は、戦い方のテクニックというよりも、「戦う場所を自ら設定し、競合を対応に追われる側に回す」ための原理原則と言えるでしょう。

自社の強みと相手の盲点を見つけることから始めましょう

もし現在、競合他社との激しい競争に消耗していると感じている場合や、新しい事業の方向性に悩んでいる場合は、一度立ち止まって市場の「虚実」を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
相手が手厚く守っている「実」の領域で無理に戦おうとしていないか、そして、相手が見落としている「虚」の領域にこそ、自社のリソースを活かせるチャンスが眠っていないかを分析することが大切です。

ビジネスにおいては、戦わない場所を決めることも立派な戦略です。
自社の独自の強みを活かし、競合が予測できないような新しいアプローチを少しずつ試してみることで、現状を打開するヒントが見つかると思われます。
二千年以上前に書かれた兵法書の知恵を、現代のビジネスという戦場で、ぜひご自身の戦略づくりに役立ててみてください。

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