054.兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず :ビジネスの目的はあくまで「勝利」であり、存続そのものを目的にしてはならない。?孫子に学ぶ3つの戦略

054.兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず :ビジネスの目的はあくまで「勝利」であり、存続そのものを目的にしてはならない。?孫子に学ぶ3つの戦略

企業の経営や新規事業の立ち上げにおいて、気がつけば「事業を継続すること」自体が目的化してしまっているケースは少なくありません。
日々の業務に追われる中で、本来達成すべきであった成果や利益を見失い、ただ会社を存続させるための持久戦に陥ってしまうことは、多くのビジネスパーソンが直面する課題であると考えられます。
このような状況において、約2500年前に書かれた中国の兵法書『孫子』に記されたある言葉が、現代のビジネス戦略にも深い示唆を与えてくれます。
本記事では、古代の兵法から導き出される「速やかに成果を出すことの重要性」と、それを現代のビジネスシーンでどのように活用していくべきかについて、詳しく解説していきます。
事業の方向性やプロジェクトの進め方に迷いを感じている皆さんが、状況を打破するためのヒントを見つける一助となれば幸いです。

ビジネスにおける真の目的は長期的な存続ではなく勝利を掴むことです

ビジネスにおける真の目的は長期的な存続ではなく勝利を掴むことです

ビジネスを展開する上で、その最終的な目的はどこにあるのでしょうか。
この問いに対する明確な答えの一つが、『孫子』の作戦篇第二に登場する言葉に隠されているとされています。
それが、「兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず」という教えです。
これは直訳すると、「戦争においては勝利を最優先とし、戦いを長引かせることを良しとしない」という意味になります。
この考え方を現代のビジネスに置き換えると、企業の目的はあくまで利益の創出や市場でのシェア獲得といった「勝利(成果)」であり、単なる「存続」を目的にしてはならないという原則が浮かび上がってきます。

企業が長く続くことは一般的に良いことと認識されますが、それはあくまで「勝利」を積み重ねた結果としての存続でなければなりません。
利益を生み出さず、ただ現状を維持するためだけに時間と資源を浪費する状態は、企業にとって非常に危険なシグナルであると言えます。
専門家の間でも、ビジネスにおける持久戦は最大の失策になり得ると指摘されています。
目的を達成するための期間を明確に区切り、速やかに決着をつける姿勢こそが、激しい市場競争を生き抜くための鍵となると考えられます。

戦いを長引かせることが企業にとって最大の弊害となる理由

戦いを長引かせることが企業にとって最大の弊害となる理由

では、なぜ戦い(ビジネス上の競争やプロジェクト)を長引かせることがそれほどまでに危険視されるのでしょうか。
『孫子』の教えを紐解きながら、長期戦がもたらす具体的な弊害について、3つの観点から考察していきます。

兵站の枯渇と経費増大による経営圧迫のリスク

古代の戦争において、戦いが長引くことで最も深刻な問題となるのが「兵站(補給)」の枯渇でした。
遠方での戦いが長期化すれば、食糧や武器の輸送にかかる負担は莫大なものとなり、国家の財政を傾かせる原因となります。
これは現代のビジネスにおいても全く同じ構造であると言えます。
プロジェクトや事業開発が長期化すればするほど、人件費、設備費、研究開発費などの経費は雪だるま式に増大していきます。
さらに、資金が特定の事業に長期間固定されることで、他の有望な投資機会を逃してしまう「機会損失」も発生します。
経営者は投資対効果を常に見極め、会社全体のリソースが枯渇する前に、速やかな決着を図る必要があると考えられます。

従業員のモチベーション低下と戦意喪失の危険性

戦場に立つ兵士の心理として、誰もが「速やかな決着」と「無事な帰還」を望んでいるとされています。
終わりの見えない長期戦は、兵士の肉体を疲弊させるだけでなく、精神的な戦意を著しく喪失させます。
ビジネスの現場においても、数年単位で成果が見えないプロジェクトに従事する従業員の皆さんは、次第にモチベーションを維持することが困難になる傾向があります。
「この仕事は本当に会社の利益につながっているのか」「いつになれば報われるのか」といった不安が蔓延すると、組織全体の生産性が低下する可能性があります。
そのため、小さな勝利を積み重ねて進捗を可視化し、従業員の士気を高く保つ工夫が不可欠です。

完璧主義を捨てて拙速を尊ぶべき背景

『孫子』には「拙速なるを聞くも、巧久なるをみざる」という有名な一節があります。
これは、「多少拙くても(完璧でなくても)素早く行動して勝利を収めた例は聞くが、巧みであっても長引かせて成功した例は見たことがない」という意味です。
ビジネスにおいて、完璧な計画や100%の品質を追求するあまり、リリースや意思決定のタイミングを逃してしまうケースは散見されます。
しかし、変化の激しい現代市場においては、時間をかけて完璧を目指すよりも、まずは市場に投入し、顧客の反応を見ながら素早く改善していくアプローチが有効であると多くの研究者が指摘しています。
完璧主義による遅れは、競合他社に先を越される致命的なリスクを孕んでいると言えるでしょう。

孫子の教えを現代のビジネス戦略に応用する3つの実践例

「兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず」という哲学は、現代のビジネスシーンにおいて具体的にどのように応用できるのでしょうか。
ここでは、プロジェクト管理、投資判断、新規事業開発の3つの領域における実践例をご紹介します。

プロジェクト管理におけるマイルストーンの設定と小さな勝利

長期にわたる大規模なプロジェクトを成功に導くためには、全体を細かい期間やタスクに分割する手法が効果的です。
具体的には、数週間から数ヶ月単位で「マイルストーン(中間目標)」を設定します。
一つのマイルストーンを達成するごとに、それを「小さな勝利」としてチーム全体で共有し、完了を認めることが重要です。
これにより、終わりの見えない作業に対する心理的な負担を軽減し、従業員の皆さんのモチベーションを継続的に高めることが期待できます。
2023年頃からプロジェクトマネジメントの分野でも、この「通過点の小さなゴールを重視する」という解釈が注目されており、孫子の教えが現代のマネジメント手法と見事に合致していることがわかります。

投資判断における早期撤退とサンクコストの見極め

企業のM&Aや新規市場への参入などの投資判断において、最も難しいとされるのが「撤退のタイミング」です。
「これまで多額の資金と時間を投資してきたのだから、もう少し頑張れば回収できるかもしれない」という心理(サンクコストの罠)に陥り、赤字事業を存続させてしまうケースは後を絶ちません。
しかし、ビジネスの目的が「勝利」である以上、勝算のない戦いを長引かせることは最大の失策です。
事業を開始する前にあらかじめ明確な撤退基準(撤退ライン)を設けておき、その基準に達した場合は潔く、かつ迅速に撤退を決断することが経営トップには求められます。
「可能性に賭けずに見極める」という厳格な姿勢が、結果として会社全体を守ることにつながると思われます。

新規事業開発におけるアジャイルな意思決定プロセス

新規事業を立ち上げる際、綿密な市場調査と分厚い事業計画書の作成に何ヶ月も費やす従来の手法は、現代のスピード感に合わなくなってきていると言われています。
ここで「拙速」の考え方が生きてきます。
必要最小限の機能を持った製品(MVP:Minimum Viable Product)を短期間で開発し、いち早く市場に投入します。
そして、実際の顧客からのフィードバックを基に、迅速に改良を重ねていくアプローチです。
この手法は、机上の空論に時間を費やす持久戦を避け、市場という実際の戦場での「小さな勝利と敗北」から素早く学習することを目的としています。
素早い意思決定と行動の反復こそが、最終的な大きな勝利を掴むための最短ルートであると考えられます。

勝利を最優先とし無駄な持久戦を避けるための要点整理

ここまで、『孫子』の「兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず」という言葉を基に、ビジネスにおける戦略のあり方について解説してきました。
重要なポイントを整理すると、以下のようになります。

  • 企業の最終目的は「利益・成果(勝利)」であり、単なる「存続」を目的にしてはならない。
  • プロジェクトや事業の長期化は、資金の枯渇や機会損失といった経営リスクを増大させる。
  • 終わりの見えない長期戦は、従業員の戦意を喪失させるため、マイルストーンによる「小さな勝利」の積み重ねが不可欠である。
  • 完璧な準備に時間をかけるよりも、「拙速(多少拙くても素早い行動)」を尊び、市場の変化に柔軟に対応する姿勢が求められる。
  • 勝算のない事業からは、サンクコストにとらわれず早期に撤退する決断力が経営者には必要である。

これらの原則は、古代の戦争から現代のビジネスに至るまで、時代を超えて通用する普遍的な真理であると言えるでしょう。
常に「勝つこと」に焦点を当て、無駄な消耗戦を避ける戦略的な思考を持つことが、企業を真の成功へと導く鍵となります。

次なる一歩を踏み出し確実な成果を上げるための思考法

現在、進行中のプロジェクトが長引いていたり、利益の出ない事業の扱いに悩んでいたりする方もいらっしゃるかもしれません。
「せっかくここまでやってきたのだから」という思い入れは、ビジネスパーソンとして当然の感情です。
しかし、一度立ち止まり、「この取り組みの真の目的は勝利することか、それともただ続けることになっていないか」を客観的に問い直してみてはいかがでしょうか。
もし後者であるならば、勇気を持って方針を転換し、速やかな決着を図る時期が来ている可能性があります。
完璧を待つ必要はありません。
今日からできる小さな決断と素早い行動の積み重ねが、やがて大きな成果という名の「勝利」をもたらしてくれるはずです。
皆さんのビジネスが、無駄な消耗を避け、確かな成長と利益を生み出す軌道に乗ることを心より応援しております。

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