
063.其の下は城を攻む :最悪なのは、相手の牙城や強固な拠点に正面攻撃を仕掛けることである。という言葉の意味や、現代のビジネスや日常にどう活かせるのか疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、中国の古典である孫子兵法におけるこの教えの真意と、なぜ正面突破が避けるべき下策とされるのかを詳しく解説します。
最後までお読みいただくことで、無駄な消耗を避け、より賢明な戦略を立てるためのヒントが得られると考えられます。
正面攻撃は多大な消耗を招くため避けるべき最終手段です

「063.其の下は城を攻む :最悪なのは、相手の牙城や強固な拠点に正面攻撃を仕掛けることである。」という教えは、孫子兵法の「謀攻篇」に記された非常に重要な原則です。
この言葉が示す結論から申し上げますと、敵の強固な守りに対して正面から攻撃を仕掛けることは、自軍の被害を最大化し、得られる利益を最小化する最も避けるべき戦術(最下策)であるとされています。
孫子は、戦術の巧拙を以下の4つの段階に分けて説明しています。
- 上策は「謀を伐つ」(敵の策略や意図を事前に崩すこと)
- 次善は「交を伐つ」(敵の同盟や外交関係を断ち切ること)
- その次は「兵を伐つ」(野戦において敵軍を直接打ち破ること)
- 最下策は「城を攻む」(敵の堅固な城塞を正面から攻撃すること)
このように、敵の拠点である「城」を直接攻撃することは、あらゆる戦略の中で最も劣るものと位置づけられています。
専門家の分析によりますと、ここでの「城」とは単なる建造物ではなく、都市全体を取り囲む堅固な城壁や防衛システムそのものを指しているとされます。
そのような強固な防衛網に対して無策のまま正面から挑むことは、武将への戒めとして「やむを得ず行う最終手段」であると厳しく指摘されているのです。
孫子兵法において城攻めが最下策と位置づけられる3つの理由

それでは、なぜ城攻めが最下策とされるのでしょうか。
孫子兵法の原文や歴史的な背景を紐解くと、そこには極めて合理的かつ現実的な理由が存在することがわかります。
ここでは、主に3つの観点からその理由を詳しく解説します。
膨大な時間と労力が必要となるため
第一の理由は、攻城戦には気が遠くなるほどの時間と労力がかかる点です。
孫子の原文には、城を攻めるための準備について具体的な期間が記されています。
攻城兵器である「櫓(巨大な盾)」や「轒轀(装甲車のようなもの)」を準備し、必要な器械を整えるだけで約3ヶ月の期間を要するとされています。
さらに、城壁を乗り越えるための土山(距闉)を築くのに、さらに3ヶ月がかかると記されています。
合計で半年もの間、軍隊を同じ場所に留めて土木工事や準備作業に従事させることは、莫大な兵糧を消費し、国家の財政を圧迫する要因となります。
現代のプロジェクトマネジメントに置き換えても、一つの困難な障壁を突破するためだけに半年のリソースを注ぎ込むことは、非常に非効率であると考えられます。
自軍の損害が甚大になるリスクが高いため
第二の理由は、無理な攻撃がもたらす致命的な人的被害です。
長期間にわたる包囲と準備は、兵士たちの士気を低下させるだけでなく、指揮官の冷静な判断力を奪う可能性があります。
孫子は、将軍が怒りに任せて準備が整わないまま兵士を城壁に群らがらせる(蟻附)ような攻撃を強行すれば、自軍の兵の3分の1を失うという最悪の事態を招くと警告しています。
兵力の3分の1を失いながらも城を落とすことができなければ、それは完全な敗北を意味します。
三国志の歴史においても、堅固な城を無理に攻め落とそうとして大敗を喫した武将の例は枚挙にいとまがありません。
そのため、直接的な攻撃ではなく、敵を城外に誘い出して野戦(陣外決戦)に持ち込んだり、食糧の補給路を断つ、あるいは火攻めや水攻めといった間接的な手法を用いることが推奨されています。
戦わずして勝つという理想に反するため
第三の理由は、孫子兵法の根本的な思想である「百戦百勝は善の善なる者に非ず、戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」という理念に反するためです。
孫子にとっての理想は、実際に刃を交えることなく勝利を収めることにあります。
上策である「謀を伐つ」や「交を伐つ」は、まさに物理的な戦闘を避けて、外交や情報戦、心理戦によって敵の戦意を削ぎ、目的を達成するアプローチです。
一方で「城を攻む」という行為は、最も物理的な衝突が激しく、血みどろの消耗戦を強いられる選択です。
敵の牙城を破壊できたとしても、自軍もまた立ち直れないほどの損害を受けてしまっては、真の勝利とは言えません。
このような観点から、正面攻撃は戦略の欠如を示すものであり、避けるべきであると論じられているのです。
現代ビジネスや組織戦略における応用例3選
孫子兵法の教えは、軍事戦略にとどまらず、現代のビジネスや組織マネジメントにおいても広く応用されています。
「063.其の下は城を攻む :最悪なのは、相手の牙城や強固な拠点に正面攻撃を仕掛けることである。」という教訓を、実際のビジネスシーンにどのように活かすことができるのか、3つの具体例をご紹介します。
競合他社の強みへの正面衝突を避けるマーケティング戦略
ビジネスにおいて「城を攻む」ことに該当するのは、競合他社が圧倒的なシェアを持つ市場や、特許で固められた強みに対して正面から挑むことです。
例えば、業界トップのA社さんが豊富な資金力とブランド力で独占している市場に、リソースの限られたB社さんが同じ製品・同じ価格帯で勝負を挑むのは、まさに堅固な城への正面攻撃と言えます。
このような場合、B社さんは正面突破を避け、「謀を伐つ」アプローチを取ることが賢明とされます。
具体的には、A社さんがカバーしきれていないニッチな市場(ブルーオーシャン)を開拓したり、全く新しい価値基準を提案してゲームのルールを変えるなどの戦略が考えられます。
相手の土俵で戦うのではなく、自社が優位に立てる陣外決戦に持ち込むことで、無駄な消耗を防ぎつつシェアを獲得することが可能になります。
組織内の対立における心理的アプローチ
社内の人間関係や組織間の対立においても、この教えは有効です。
意見が真っ向から対立している他部署の責任者であるCさんに対して、論破しようと正面から議論をぶつけることは「城攻め」と同じ構造になります。
相手も自分の立場(城)を守るために頑なになり、結果として関係性が悪化し、プロジェクト全体が停滞する可能性があります。
このような状況では、直接的な対決を避け、心理戦や情報戦(心を攻める上策)を用いることが推奨されます。
例えば、Cさんが重視している目標や懸念事項を事前にリサーチし、双方が納得できる落とし所(謀)を提案する、あるいはCさんが信頼を置いている第三者のDさんに間に入ってもらう(交)といった手法です。
相手の防御姿勢を崩すための間接的なアプローチを取ることで、摩擦を最小限に抑えながら合意形成を図ることができます。
交渉事における事前準備と根回しの徹底
営業活動や他企業との提携交渉などの場面でも、正面からの力押しは下策とされます。
難攻不落の取引先に対して、ただ何度も訪問して熱意を伝えるだけの営業手法は、時間と労力を浪費するだけでなく、相手に警戒心を抱かせるリスクがあります。
ここで求められるのは「交を伐つ」という戦略です。
直接担当者に売り込む前に、その企業が現在抱えている課題を周辺情報から探り出し、相手の協力体制や同盟関係を切り崩す、あるいは自社との提携が相手のネットワーク全体にどう有益かを論理的に示すことが重要です。
取引先の担当者であるEさんが「この提案を受け入れざるを得ない」と自発的に考える状況を、事前の根回しや情報提供によって作り出すことができれば、それは戦わずして勝つ理想的な状態と言えます。
このように、正面からの交渉(城攻め)に至る前に、外堀を埋める作業に注力することが成功の鍵となります。
戦略の優先順位を見直し賢明な選択をすることが重要です
ここまで、「063.其の下は城を攻む :最悪なのは、相手の牙城や強固な拠点に正面攻撃を仕掛けることである。」という教えの真意と、ビジネスへの応用例について解説してきました。
孫子が説くように、敵の最も強固な部分に対して正面からぶつかることは、膨大な時間とリソースを浪費し、自軍に致命的なダメージを与える危険性が高い行為です。
戦略を立てる際には、常に「謀を伐つ」「交を伐つ」といった上流のアプローチから検討を始め、直接的な衝突である「兵を伐つ」や、最悪の選択である「城を攻む」は、「やむを得ず」行う最終手段として位置づけるべきとされています。
現代の複雑なビジネス環境や人間関係においても、この優先順位を意識することで、無用なトラブルやリソースの枯渇を防ぐことができると考えられます。
より効果的な戦略構築に向けて新たな視点を取り入れましょう
困難な壁に直面したとき、私たちはつい「もっと努力すれば」「もっと力を入れれば」と正面突破を図ろうとしてしまいがちです。
しかし、そのような時こそ孫子の教えを思い出し、一度立ち止まって全体像を見渡すことが大切です。
相手の強みを真正面から受け止めるのではなく、視点を変えて相手の意図を崩す方法や、周囲の環境を変えるアプローチを探求してみてはいかがでしょうか。
多角的な視点を持つことで、戦わずして目的を達成する道が必ず見えてくるはずです。
日々の業務や組織運営において、ぜひこの古き良き知恵を活かし、よりスマートで効果的な戦略を実践していただければ幸いです。