133.勇怯は勢なり :従業員が勇猛になるか臆病になるかは、組織の勢い(モメンタム)に依存する。!組織を変える3つの実践方法を解説

133.勇怯は勢なり :従業員が勇猛になるか臆病になるかは、組織の勢い(モメンタム)に依存する。!組織を変える3つの実践方法を解説

組織の目標達成に向けて、従業員にもっと主体的に、そして勇猛に動いてほしいと考えることはないでしょうか。
一方で、新しい挑戦に対して消極的であったり、失敗を恐れて臆病になってしまったりする従業員の姿に悩むリーダーの方も少なくないと考えられます。

このような課題に直面した際、多くの場合は従業員個人の性格やモチベーションといった資質に原因を求めてしまいがちです。
しかし、個人の性格や先天的な能力を短期間で変えることは非常に困難です。

本記事では、約2500年前から読み継がれる孫子の兵法を紐解き、従業員の心理状態やパフォーマンスを根本から変えるための組織マネジメントの手法について詳しく解説します。
この記事をお読みいただくことで、従業員がなぜ臆病になるのか、そしてどうすれば勇猛果敢に挑戦できるようになるのか、そのメカニズムが明確になります。

そして、組織全体に圧倒的なモメンタム(勢い)を生み出し、困難な状況下でも力強く前進し続ける、強靭なチームを作り上げるための具体的なヒントを得ることができるはずです。

従業員の姿勢は個人の資質ではなく組織の勢いが決定します

従業員の姿勢は個人の資質ではなく組織の勢いが決定します

組織において従業員が果敢に挑戦する姿勢を見せるか、あるいは失敗を恐れて萎縮してしまうかは、個人の性格特性によるものだと考えられがちです。
しかし、孫子の兵法『勢篇』に記された教えによれば、その根本的な原因は全く別のところに存在します。

孫子は「治乱は数なり。勇怯は勢なり。強弱は形なり」と述べており、組織の秩序、心理状態、戦力はそれぞれ異なる要因によって左右されることを説いています。
この中の「勇怯は勢なり」という言葉こそが、現代の組織マネジメントにおいて非常に重要な示唆を与えてくれます。

これは、戦闘における勇敢さと臆病さは、軍全体の勢いによって決定されるという意味を表しています。
つまり、一人ひとりの兵士が勇猛であるか臆病であるかは、彼らが生まれ持った資質ではなく、その時に所属している組織がどのような勢い(モメンタム)を持っているかという外部要因に完全に依存しているということです。

現代のビジネスシーンに置き換えれば、従業員が勇猛になるか臆病になるかは、組織の勢い(モメンタム)に依存するという真理に行き着きます。
業績が右肩上がりで活気に満ちた組織では、普段は控えめな従業員であっても、周囲の空気に後押しされて大胆な提案を行ったり、新しいプロジェクトに果敢に挑戦したりする傾向が見られます。
逆に、業績が低迷し、失敗に対する風当たりが強い組織では、本来は優秀で積極的な従業員であっても、保身に走り、リスクを避ける臆病な行動をとるようになります。

したがって、経営者やマネージャーなどのリーダー層が取り組むべきは、従業員個人の性格を改造しようとすることではありません。
組織全体を包み込む「勢い」をいかにして創り出し、維持していくかという環境構築に注力することが、最も効果的なマネジメント手法であると言えます。

なぜ組織の勢いが従業員の心理状態を左右するのか

なぜ組織の勢いが従業員の心理状態を左右するのか

では、なぜ組織の勢いがこれほどまでに個人の心理状態に強い影響を及ぼすのでしょうか。
そのメカニズムを理解するためには、孫子が定義する「勢い」の本質と、人間が持つ集団心理の特性を深掘りしていく必要があります。

ここでは、孫子の兵法における解釈と現代の組織心理学の観点から、その理由を詳しく解説します。

孫子の兵法が教える「勢い」の正体

孫子は『勢篇』の中で、勢いの定義について非常に分かりやすい比喩を用いて説明しています。
それは「激水の疾くして石を漂わすに至るは勢なり」という表現です。

これは、激流が大きな石をも押し流してしまうほどの圧倒的な力を指しています。
静かに流れる川の水では小石一つ動かすことはできませんが、急勾配を一気に流れ落ちる激流となれば、巨大な岩石でさえも軽々と押し流してしまいます。
水そのものの性質は変わっていなくても、そこに「勢い」が加わることで、発揮されるエネルギーは劇的に変化するのです。

組織におけるモメンタムもこれと全く同じ構造を持っています。
従業員一人ひとりの能力(水)が変わらなくても、組織全体が同じ方向に向かって加速している状態(激流)を作り出せば、不可能と思われていた困難な課題(石)をも突破する力を生み出します。
この圧倒的な組織のモメンタムの中では、個人の不安や恐怖といったマイナスの感情は押し流され、自然と前向きで勇猛な心理状態へと導かれると考えられます。

勇敢さと臆病さの相互生成原理

さらに孫子は、「乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は強に生ず」という相互生成の原理を提示しています。
これは、混乱は秩序の中から生まれ、臆病さは勇敢さの中から生まれ、弱さは強さの中から生まれるという、物事の相対的で動的な変化を示したものです。

つまり、勇敢な組織と臆病な組織は完全に分断された別のものではなく、状況や勢いの変化によっていつでも反転し得るということです。
どんなに勇猛果敢なチームであっても、一度勢いを失い、不信感や停滞感が蔓延すれば、たちまち臆病な集団へと転落してしまう可能性があります。
逆に言えば、現在どれほど萎縮して臆病になっている組織であっても、適切なマネジメントによって勢いを取り戻すことができれば、再び勇敢な集団へと生まれ変わることができるのです。

この原理は、従業員の心理状態が常に環境と相互作用しながら変化し続けていることを教えてくれます。
リーダーは、現在の組織が「勇」の状態にあるのか、それとも「怯」の状態に向かいつつあるのか、その微細な変化を敏感に察知し、勢いを維持・向上させるための舵取りを継続的に行う必要があります。

個人の能力に依存しない組織統制の確立

また、孫子は「善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず」と述べています。
優れた指導者は、戦いの勝敗を組織全体の勢いに求め、個々の兵士の能力や責任に帰結させることはないという意味です。

組織のパフォーマンスが低下した際、「あの従業員のやる気がないからだ」「個人のスキルが不足しているからだ」と個人を責めてしまうことは、マネジメントにおける典型的な失敗例とされています。
個人を責める文化は組織内に恐怖と萎縮を生み出し、結果としてさらなる「怯(臆病さ)」を増幅させる悪循環に陥ります。

勝つ軍隊は「味方と敵とが入り乱れて戦うときであっても、隊が乱れて統制が取れなくなったりはしない」とされています。
これは、強い勢いという明確なベクトルが存在していれば、多少の混乱や個人のミスの下でも組織は機能し続けることを意味しています。
従業員が失敗を恐れずに勇猛に戦えるのは、個人の能力が高いからではなく、「組織の勢いが自分を守ってくれる」「失敗しても組織全体でカバーできる」という心理的安全性と一体感が醸成されているからだと言えます。

組織の勢いを作り出し従業員を勇猛にする3つの実践例

理論として「勢い」の重要性を理解しても、実際に現代のビジネスシーンでどのようにモメンタムを創出すればよいのか、具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。
現代の経営戦略や組織マネジメントにおいて、孫子の教えは中規模以上の企業経営者向けの指針として広く応用されています。

ここでは、組織の勢いを作り出し、従業員を勇猛な状態へと導くための具体的な実践例を3つの視点からご紹介します。

1. 小さな成功体験の積み重ねによるモメンタムの形成

組織に勢いを生み出すための最も確実な方法は、小さな成功体験(クイックウィン)を意図的に設計し、それを組織全体で共有することです。
特に新規事業の立ち上げや、業績低迷からの回復期においては、最初から高すぎる目標を掲げると、達成できなかった際の挫折感が「怯」を生み出す原因となります。

  • まずは1ヶ月で達成可能な現実的な小目標を設定する
  • その目標を達成した際は、規模の大小に関わらず組織全体で大々的に称賛する
  • 成功の要因を分析し、次のステップへと迅速に展開する

このようなプロセスを繰り返すことで、「自分たちは前進している」「やればできる」というポジティブな空気が組織内に醸成されていきます。
この連続した成功体験が、やがて激流のような大きなモメンタムとなり、従業員はより難易度の高い課題に対しても勇猛果敢に挑戦するようになります。
リーダーの役割は、この「勝つ癖」をつけるための最初の小さな一歩を意図的にデザインすることにあります。

2. 「節目」を捉えた適切なタイミングでの意思決定

孫子の兵法において、勢いと並んで重視されるのが「節(節目・タイミング)」の概念です。
優れた戦略家は、組織の勢いが最も高まった瞬間を正確に捉え、そこに集中的に戦力を投じます。
鳥の猛禽類が獲物を捕らえる際、一瞬の隙を突いて急降下し、一撃で仕留めるような絶妙なタイミングが「節」に相当します。

組織マネジメントにおいても、このタイミングの把握は極めて重要です。
例えば、新製品のリリースが市場で好意的に受け止められた瞬間や、競合他社が失態を演じた瞬間など、外部環境の変化によって組織内に自然と勢いが生まれるタイミングがあります。

  • 市場のトレンドが自社の強みと合致したタイミングを見逃さない
  • 従業員のモチベーションが高まっている時期に、重要なプロジェクトを立ち上げる
  • 停滞感を感じた際は、あえて組織改編や人事異動を行い、人為的に節目を創り出す

モメンタムが高まった時期に重要な施策を迅速に実行することで、従業員の心理状態は最高潮に達し、最大限のパフォーマンスを発揮することが可能になります。
逆に、いくら組織に勢いがあっても、経営陣の意思決定が遅れれば、その勢いは水泡に帰し、従業員は失望から臆病な姿勢へと戻ってしまいます。

3. 正奇の戦法を用いた柔軟な戦略展開

組織に勢いをつけ、従業員を勇猛にするためには、単調な戦略の繰り返しを避けることも重要です。
孫子は「正(基本・定石)」と「奇(応用・奇策)」を組み合わせることで、無限の変化を生み出し、敵を圧倒する「正奇の戦法」を提唱しています。

ビジネスにおいて、常に同じ営業手法や同じ製品開発のプロセスを繰り返していると、組織はマンネリ化し、勢いが失われていきます。
従業員も新しい刺激がないため、現状維持を望む保守的で臆病な思考に陥りやすくなります。

  • 基本となる既存事業(正)で安定的な収益基盤を確保する
  • 同時に、革新的な新規事業や斬新なマーケティング施策(奇)を試験的に展開する
  • 「奇」が成功の兆しを見せたら、それに勢いをつけて組織全体の新たな「正」へと昇華させる

このように、基本を重んじつつも常に新しい変化を組織内に取り入れることで、組織のモメンタムは持続的に維持されます。
従業員は「次はどんな面白いことが起きるのか」という期待感を持ち、変化を恐れるどころか、自ら変化を創り出す勇猛なイノベーターへと成長していくことが期待されます。

組織のモメンタムを高めて従業員の潜在能力を引き出しましょう

ここまで、孫子の兵法『勢篇』における「勇怯は勢なり」という教えを基に、組織の勢いが従業員の心理状態に与える影響とその実践方法について解説してきました。
従業員が勇猛になるか臆病になるかは、決して彼ら個人の資質や性格だけで決まるものではありません。
それは、組織全体がどのようなモメンタムを持ち、どのような環境下にあるかということに大きく依存しています。

激水が石を押し流すように、圧倒的な組織の勢いは、個人の不安や恐怖をかき消し、本来持っている以上の力を引き出します。
一方で、勢いを失った組織では、どれほど優秀な人材であっても萎縮し、パフォーマンスを低下させてしまいます。
また、勇敢さと臆病さは常に表裏一体であり、環境の変化によって容易に入れ替わるという相互生成の原理も忘れてはなりません。

したがって、経営者やリーダーに求められる最大の役割は、従業員個人の能力不足を責めることではありません。
小さな成功体験を積み重ね、適切なタイミングで意思決定を下し、常に組織に新鮮な変化をもたらすことで、意図的に「勢い」を創り出すことです。
組織のモメンタムが高まれば、従業員は自然と勇猛果敢に挑戦するようになり、結果として組織全体の目標達成へと繋がっていくと考えられます。

今日からできる組織の勢いづくりの第一歩

従業員の消極的な姿勢や、挑戦を避ける傾向に悩んでいるリーダーの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、その現状を悲観する必要はありません。
なぜなら、「勇怯は勢なり」の教えが示す通り、組織の勢いさえ変えることができれば、従業員の姿勢も必ず前向きなものへと変化するからです。

まずは明日から、従業員個人の性格やモチベーションに原因を求めるのをやめてみてはいかがでしょうか。
そして、「今の私たちのチームには、激水のような勢いがあるだろうか?」「従業員が失敗を恐れずに挑戦できるモメンタムを作り出せているだろうか?」と、組織の環境という視点から現状を問い直してみてください。

大きな変革を一度に行う必要はありません。
日常の業務の中で、チームの小さな成果を見つけて全力で称賛すること、それが組織に勢いを生み出す最初の一滴となります。
その一滴がやがて激流となり、従業員一人ひとりが勇猛果敢に活躍する、強くしなやかな組織へと成長していくことを願っています。

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